認知症に親がなった場合、親の銀行口座から介護費用を引き出そうとしたところ、後見人が取引をするのが基本だと窓口で助言されたと聞きました。
なんとなく名前を聞いたことがある後見人って、どんな人がなって、どんな役目で、何に気をつけなければならないのかな?
親が認知症と診断されると、原則、親の財産を処分できなくなります。例え介護目的等親のためであってもです。本人(親)に変わって財産管理を適切に行ったり、法律行為をする成年後見人と呼ばれる制度があります。
手続き手法や費用感、自分がなった場合、何を気をつけなければならないかを理解しておくことが大事です。
【結論】成年後見人は親の財産管理や契約行為をスムーズに行うために必要な制度です。
成年後見人になるための特別な資格は必要ありません。
ただし、家庭裁判所への手続き、事務手間や費用、辞任するにも手続きがあることに注意。
成年後見人は親族がなることができますし、誰かに依頼することもできます。
親御さんが元気な間に後見人を決めておくこともできますし、認知症等になってしまってからでも対応できます。
手続きや、メリット・デメリット、費用感を知っておくことはいざという時に動揺しなくて済みます。まずは、心得と実務を知っておきましょう。
成年後見人とは
成年後見人とは、「成年後見制度」に基づいて、認知症や知的障害などによって判断能力が不十分な人の代わりに法律行為を行う人のことです。具体的には、契約の締結や解除、財産の管理を本人の代わりに行い、法律の観点から本人(親)を保護・支援します。
成年後見人制度には、大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」という2種類の制度が存在します。
法定後見人制度は、成年被後見人(本人:親)の判断力が不十分と判断される場合に採用され、家庭裁判所が成年被後見人の状況を見て、成年後見人に適した人を選びます。
さらに法定後見のなかには、「後見」、「保佐」、「補助」と、3つの形態があります。
権限には幅があり、補助人→保佐人→後見人の順で権限の幅が広くなり、後見人、保佐人、補助人の選択は、本人の認知症や障害の度合いによって決まります。
任意後見制度は、成年被後見人(本人:親)の判断力がまだ十分にある場合に採用される制度です。
まだ十分に判断力があるうちに任意後見人になってもらう人を成年被後見人が選び、支援する内容を事前に決定し、契約しておきます。任意後見人の権限は任意後見契約に従って決まります。
成年後見人になるための資格は?
成年後見人になるために、特別な資格は必要ありません。親族のほか、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家が選任されることもあります。
一度成年後見人が定まると成年後見人の変更は容易に認められないという点に注意が必要。一方で、家庭裁判所が成年後見人を変更するケースもあります。
成年後見人が辞任した場合
成年後見人から辞任の申し出があり、その理由に正当な理由があるとき(裁判所の許可が必要)。
成年後見人が解任された場合
成年後見人に不正な行為、後見の任務に適しない事由があるとき
(横領や利益相反などといった不正行為や権限の濫用、任務の怠慢があったときなど)。
成年後見人は何をしなければならないの?
[1] 財産管理
成年後見人は、本人に代わって、本人の財産を適切に管理することが求められます。
年金の受領や預貯金や有価証券類の管理、収支の把握などがあります。成年後見人は財産管理を行うために、本人の代わりに契約の締結(代理権の行使)や契約の取り消し(取消権の行使)を行います。
[2] 身上監護
成年後見人は、本人に代わって法的な契約行為を行うことで、本人の安全と健康を守らなければなりません。本人の安全と健康を守るために、住まいの確保・整備、介護保険サービスの契約、介護施設や病院の入退院の手続きを行います。
[3] 職務内容の報告
成年後見人は、上記でお伝えした財産管理や身上監護を適正に行っていることを示す報告書を、家庭裁判所へ年1回提出する必要があります。提出するのは、後見等事務報告書、財産目録、預貯金通帳のコピー、本人収支表の4種類です。
報告を受けた家庭裁判所は、成年後見人に対して監督を行います。成年後見監督人が選任されている場合には、監督人に対しても報告する義務があります。
成年後見人になる手続きは?
任意後見の場合
[1] 任意後見契約を結ぶ
任意後見では、本人が元気なうちに任意後見人を選びます。任意後見人には、将来自分の後見人になってほしい人を選び、任意後見契約を結びます。安心できる親族や、弁護士、司法書士、税理士などから選ぶのが一般的です。
任意後見契約書は、「公正証書」で行います。公正証書とは、法律に関する知識と経験豊富な公務員である公証人が作成する証書のことです。契約は、本人の意思を確認したうえで、契約内容が法律に沿っている必要があるため、公正証書の形で結ぶように法律で定められています。公証役場で手続きができます(https://www.koshonin.gr.jp/list)
公証人は法務局で任意後見契約を登記します。登記が終わると、法務局から「登記事項証明書」が交付されます。この段階では任意後見人候補者は「任意後見受任者」という立場にすぎず、任意後見人としての職務・権限はまだ発生していません。
任意後見の効力が発揮するのは、本人の判断力が低下した後からで、次に説明する任意後見監督人の選任後になります。
[2] 任意後見監督人の選任を裁判所に求める
本人の判断力が低下すると、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。
一般的に、任意後見監督人に選ばれるのは、本人の親族ではなく、専門職の第三者です。また、監督人の選任申立手続を行えるのは、本人やその配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者です。
任意後見監督人が選ばれると、任意後見を委任された候補者は、任意後見人としての職務を開始できます。任意後見監督人の職務は、任意後見人が任意後見契約の内容通りに、適正に仕事をしているかを監督することです。任意後見人から財産目録などを提出させることも仕事の1つです。
本人と任意後見人の利益が相反した場合で法律行為を行う際は、任意後見監督人が本人の代理になります。任意後見監督人はこうした事務について家庭裁判所に報告する義務があるため、家庭裁判所の監督を受けることになります。
法定後見の場合
法定後見で法定後見人を選ぶ場合は、以下の4ステップを踏みます。
[1] 申立準備
多くの場合、法定後見制度による成年後見人の選任は、本人の判断能力が低下したことを周囲が認めた後、家庭裁判所に申し立てを行うことから始まります。後見人の有力な候補者が身内にいない場合でも、家庭裁判所が法定後見人を選んでくれます。
申立準備には、申立書一式(家庭裁判所でもらう、またはホームページからダウンロードが可能)、医師の診断書、後見人候補者、親族の同意書などが必要です。申し立てに必要な書類をそろえたら、本人の住所を管轄する家庭裁判所に提出します。
[2] 審理
申し立てに必要な書類が家庭裁判所に届くと、家庭裁判所が審理を開始します。
裁判所の担当者が、法定後見人の申し立てをした人に事情を直接聴きます。申し立てた人や本人ばかりではなく、親族の意向を確認するほか、後見人候補者の適性もチェックします。さらに、法定後見人が必要とされる本人の状況を確認するために、必要であれば医師に精神鑑定をしてもらうこともあります。
[3] 審判
成年後見人の必要性が認められた場合、裁判官は成年後見を開始する旨の審判を下します。審判の結果は、成年後見開始を申し立てた人、本人、成年後見人宛に通知します。
[4] 後見登記
裁判所からの通知後、2週間以内に不服申し立てをしなければ、裁判所の審判は確定となります。確定となった法定後見人は法務局で登記され、正式な成年後見人となります。
費用はどのくらい?
任意後見監督人・成年後見開始の申立てにかかる費用
任意後見・法定後見どちらにおいても、費用はかかります。
費用の種類 | 金額 |
---|---|
収入印紙 | 3,400円分 (内訳:申立1件につき800円分+2,600円分) |
鑑定費用(本人の判断能力について) | 10~20万円程度 |
医師の診断書の作成費用 | 数千円程度(病院ごとに異なる) |
その他 | 住民票や戸籍謄本の発行代、送付費用など |
公正証書作成にかかる費用(任意後見のみ)
任意後見制度を利用する際は、上記のほかに、任意後見契約公正証書の作成に費用がかかります。
任意後見契約公正証書の作成時
費用の種類 | 金額 |
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公正証書作成手数料 | 11,000円 |
登記嘱託手数料 | 1,400円 |
登記所に納付する印紙代 | 2,600円 |
その他 | 本人らに交付する正本等の証書代、登記嘱託書郵送用の切手代など |
報酬(専門家に依頼した場合)
成年後見人や任意後見監督人への報酬は、裁判所が申立てに基づいて「審判」により決定します。審判によらずに報酬を受け取ることはできません。
東京家庭裁判所によると、通常の後見事務を行った場合、法定後見人への報酬は月額2万円が目安。
ただし、管理財産に応じて報酬は変わってきます。管理財産額が1,000万円以上で5,000万円以下の場合は、財産管理事務が複雑で困難になるケースが多いため、月額の報酬額の目安は3万円~4万円となります(ただし、実態はこれらの目安と異なる場合もあります)。
任意後見人の報酬は、任意後見契約で定められた金額を受け取ることができます。
相応の事務と費用が発生する旨を理解し、後継人制度の利用を考えていただけたらと思います。