相続放棄が急増——理由と手続き、メリット・デメリット、気をつける点を、FPがやさしく解説

こんにちは、独立系FPの山岸です。今日(10月24日)の日本経済新聞の「マネーのまなび」に、「借金・空き家、相続放棄が急増 手続き期限は3カ月」という記事が載っていました。「相続放棄」という言葉は聞いたことがあっても、「自分には関係ない」と思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

実は、いま、相続放棄をする方が、どんどん増えています。ご相談を受けるときに私がいつも大切にしているのは、「知らなかったために、選べる道を失ってしまう」ことがないようにすることです。相続放棄には、「3か月」という期限があります。今日は、その仕組みと手続き、気をつけたい点を、ひとつずつ、丁寧にお話しします。10分ほどお付き合いください。

相続放棄は、どれくらい増えているのか

記事によると、司法統計で、2025年の相続放棄の新規受理件数は、前年より4.8%増えて32万3,524件。過去最高です。この10年で、7割強も増えました。

相続放棄の新規受理件数の推移(2015年と2025年)

なぜ、相続放棄が増えているのでしょうか

理由は、ひとつではありません。記事の内容と、私が感じている点を、表にまとめます。

理由内容
借金などの「マイナスの財産」を引き継ぎたくない相続は、預貯金などのプラスだけでなく、借金も引き継ぎます。相続放棄をすれば、借金を引き継がなくて済みます
家や土地を引き継ぎたくない親が亡くなっても、子どもに持ち家があり、誰も実家に住まない場合など。空き家でも、固定資産税はかかり、修繕や、火災保険などの費用と手間もかかります
相続登記の義務化(2024年4月から)不動産を取得したと知った日から、原則3年以内に名義変更が必要になり、正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。所有者がはっきりするので、管理の負担を避けるために、相続放棄が浮かび上がりやすくなりました
疎遠な親族の相続が、突然、届く長く連絡を取っていなかった親族の相続の知らせが、突然、届くことがあります。借金の有無もわからず、不安になって、放棄を考える方もいます

特に、「不動産」は、現金のように、簡単に売ったり、手放したりできないのが悩みどころです。「管理できないものを、引き継いでしまう」ことへの不安が、背景にあると、私は感じています。

そもそも、相続放棄とは?

相続放棄とは、亡くなった方のプラスの財産も、マイナスの財産も、すべて引き継がない手続きです。家庭裁判所に申し立てて、受理されると成立します。

  • 家庭裁判所に申し立てて、受理されたら成立する
  • 相続人が複数いても、1人だけで、放棄できる
  • 放棄すると、「はじめから相続人ではなかった」ことになる
  • 預貯金など、プラスの財産だけ引き継ぎ、借金だけ放棄する、ということはできない

相続放棄の手続きの流れ

相続放棄の手続きの流れ(原則3か月以内)

流れを、表にまとめます。

ステップやることポイント
①相続が始まったことを知る亡くなったことを知るこの日が、3か月の期限のスタートになります
②相続財産を調べる預貯金、不動産、借金などを確認プラスもマイナスも、洗い出す
③放棄するか判断する財産調査の結果を見て決める迷ったら、期限内に、専門家へ
④家庭裁判所に提出申述書、戸籍などの必要書類を提出収入印紙などの費用がかかる(金額は、裁判所の案内で確認)
⑤家庭裁判所の照会書に回答意思確認の書面に回答して返送期限内に、忘れずに
⑥受理通知書が届く相続放棄が成立原則として、あとから取り消せない

いちばん大切なのは「3か月」という期限

亡くなったことを知った日から、3か月以内。この期間を「熟慮期間」と呼びます。ここが、いちばん大切なところです。

  • 3か月以内に手続きをしないまま、期間が過ぎると、プラスもマイナスも、すべて引き継ぐ「単純承認」とされます
  • 熟慮期間は、延長を請求できますが、「遺産分割協議が難航している」など、正当な理由が必要です

ですから、「落ち着いてから考えよう」と、そのままにしてしまうのは、危険です。気持ちの整理がつかない時期でも、財産調査だけは、早めに始めてください。

まず、財産を調べましょう

相続放棄をするかどうかは、プラスとマイナスを調べて、判断します。調べ方を、表にしました。

調べるもの調べ方
預貯金通帳・キャッシュカードを手がかりに、銀行に問い合わせる
有価証券(株・投資信託)取引報告書などから、証券会社に問い合わせる
不動産固定資産税の通知書を確認する。2026年2月に施行された「所有不動産記録証明制度」を使うと、故人の名義の不動産を、全国分、リストにして入手できる
借金通帳の引き落とし記録、請求書、督促状を確認する。個人の借金などの情報は、信用情報機関(全国銀行個人信用情報センター、CIC、JICCなど)に、照会できる

調べた結果、マイナスの財産が、プラスの財産より多い場合は、相続放棄が、ひとつの選択肢になります。

相続するか、放棄するか 判断の目安

気をつけたい点(ここが、いちばんの落とし穴です)

相続放棄では、「知らずにやってしまって、放棄できなくなる」失敗が、少なくありません。表で整理します。

気をつける点内容
財産に手をつけない財産を処分すると、「相続を受け入れた」とみなされ、放棄できなくなるおそれがあります。遺品整理を理由に、財産に手をつけることにも注意が必要です
次の順位の人に、相続権が移るあなたが放棄すると、次の順位の人が、相続人になります。次の人が、借金を引き継ぐケースもあり、トラブルを避けるため、事前に、関係する親族へ情報を共有しておくことが大切です
放棄しても、責任が残る場合がある放棄した時点で、家などを「現に占有」している場合、次の相続人や、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人に引き渡すまで、責任が残ることがあります。例えば、対象の家屋に、自分の荷物を保管している場合などが該当する可能性があります
3か月の期限期限を過ぎると、原則、放棄は難しくなります。期限が迫っている場合は、早めに、専門家や家庭裁判所に相談を
一度、放棄が受理されると、原則、取り消せない「やっぱり相続したい」と思っても、原則、撤回できません。慎重に、判断を
放棄すると、相続権は次の順位の人へ移ります

相続放棄と、お金(税金・生命保険)の関係

お金の面で、気をつけたい点もお話しします。

項目内容
相続税放棄した人は、相続税の申告・納付は、原則、不要です。ただし、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の計算では、放棄した人も、法定相続人の数に含まれるので、控除額には影響しません
生命保険金放棄した人が、保険金の受取人に指定されていれば、保険金は受け取れます。ただし、「みなし相続財産」として、相続税の課税対象になり、放棄した人は、生命保険金の非課税枠は、使えません(税理士の河合厚氏のコメントより)

相続放棄の、メリットとデメリット

メリットデメリット・注意点
借金などのマイナスの財産を引き継がなくて済むプラスの財産(預貯金など)も、すべて引き継げなくなる
管理できない不動産、空き家の負担から解放される放棄後も、家を「現に占有」していると、責任が残る場合がある
相続人同士の、複雑な手続き(遺産分割)に、関わらなくて済む次の順位の人に、相続権が移り、親族に影響が及ぶ
相続税の申告が、原則、不要になる生命保険金の非課税枠が使えないなど、税金面の注意がある
(心理面)借金の不安から、解放される3か月の期限を過ぎると、やり直しが難しく、受理されると、取り消しも、原則できない

私からの、アドバイス——いま、できること

ここからは、FPとして、お客様にお伝えしていることを、お話しします。

1. まず、財産と借金の全体像をつかむ

  • 放棄するかどうかは、調べてからで、遅くありません。ただし、期限(3か月)は、決まっています。早めに動き始めましょう

2. 迷ったら、期限内に、専門家へ

  • 申述書の作成など、手続きの書類は、司法書士・弁護士が、サポートできます。まず、お住まいの地域の家庭裁判所の案内を、確認するのもよい方法です

3. 財産に、手をつけない

  • 遺品整理や、預貯金の引き出し、不動産・車の処分などは、放棄するかもしれない段階では、控える。迷ったときは、専門家に確認してから、動きましょう

4. 親族と、早めに共有する

  • 放棄すると、次の順位の人に影響が出ます。トラブルを防ぐため、事前に、関係する親族に、連絡しておく

5. 生きているうちに、できる備え

  • 親御さんとご自身の、財産や借金の状況を、元気なうちに、話し合っておく。エンディングノートに、まとめてもらうのも、おすすめです
  • 実家の将来(誰が住むのか、売るのか、空き家になるのか)を、家族で、話し合っておく

相続は、「その時になって、はじめて考える」ことが多いものです。でも、少しだけ、事前に考えておくだけで、残されたご家族の負担は、ぐっと軽くなります。

まとめ

  • 相続放棄は、2025年に32万3,524件で、過去最高。10年で7割強の増加。背景には、借金や、管理できない不動産への不安がある
  • 相続放棄は、家庭裁判所に申し立て、受理されると成立。プラスも、マイナスも、すべて引き継がない
  • 期限は、亡くなったことを知ってから、原則3か月。過ぎると、すべて引き継ぐ「単純承認」とされる
  • 財産に手をつけない、次の順位の人へ移る、責任が残る場合がある、の3点が、いちばんの注意点
  • 放棄した人は、相続税の申告は原則不要。ただし、生命保険金の非課税枠は使えない
  • 迷ったときは、期限内に、専門家へ。そして、生きているうちに、家族で話し合っておくことが、いちばんの備え

相続のことは、不安が大きく、一人で抱えてしまいがちです。どうか、一人で悩まずに、お気軽にご相談ください。一緒に、整理していきましょう。


本記事は、2026年10月24日付の日本経済新聞「マネーのまなび」の記事の内容をもとに、独立系FPの山岸が、個人の見解を交えてまとめた一般的な情報提供です。相続の状況は、ご家族ごとに異なります。法律上の判断や、手続きの具体的な方法、費用は、家庭裁判所・司法書士・弁護士・税理士などの専門家に、必ずご確認ください。図は、記事の内容をもとに作成したイメージで、2015年の件数は、記事のグラフからの概算です。

参考にしたサイト・資料
借金・空き家、相続放棄が急増 手続き期限は3カ月|日本経済新聞「マネーのまなび」2026年10月24日付(紙面)
裁判所(相続放棄に関する案内)
法務局(所有不動産記録証明制度・相続登記)

この記事を書いた人

fp.yamagishi

金融機関に勤務しながら、副業でファイナンシャル・プランナーをしています。大学卒業後に金融機関に勤め、10年勤務した後、同業に転職。
25年以上の金融機関勤務経験を活かし、皆さんの資産運用・お金の問題を支援できましたらと考えています。

【資格】
・ファイナンシャルプランナー(CFP)
・FP技能検定1級取得
・貸金業取扱主任者