「65歳になったら、自分の厚生年金と遺族厚生年金を一緒にもらえないと聞いたのですが、どういうことでしょうか?」
現在遺族厚生年金を受給されている50代のクライアント様から、こんなご相談をいただきました。年金機構の説明を読んでもピンとこない、という方は非常に多いです。この記事では、実際の数字を使った事例をもとに、65歳以降の遺族厚生年金と老齢厚生年金の関係を、10分程度で読める形にまとめました。
なぜ「両方まるごと」はもらえないのか
まず大前提として、老齢基礎年金は65歳以降、必ず全額受給できます。調整の対象になるのは「厚生年金部分」だけです。
65歳以降のルールは次の通りです。
- まず、自分の老齢厚生年金を全額受給する
- 遺族厚生年金の額は、次の2つの計算式のうち高い方で決まる
- 計算式A:亡くなった配偶者の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3
- 計算式B:亡くなった配偶者の老齢厚生年金の2分の1+自分の老齢厚生年金の2分の1
- その「遺族厚生年金の額」が自分の老齢厚生年金額より高い場合、差額分だけが遺族厚生年金として上乗せ支給される
- 自分の老齢厚生年金の方が高ければ、遺族厚生年金は全額支給停止になる
つまり「遺族厚生年金+自分の老齢厚生年金」を単純に合算してもらえるわけではなく、自分の老齢厚生年金が多いほど、遺族厚生年金の上乗せ分は減っていき、やがてゼロになる仕組みになっています。
具体的な試算:自分の老齢厚生年金が70万・100万・150万・180万円の場合
分かりやすくするため、「亡くなった配偶者の老齢厚生年金(報酬比例部分)」を年133万円と仮定します(計算式Aで年100万円になる水準です)。この前提で、自分の老齢厚生年金の額ごとに、実際の受給額がどう変わるかを試算しました。
| 自分の老齢厚生年金 | 計算式A(配偶者の4分の3) | 計算式B(配偶者の1/2+自分の1/2) | 採用される遺族厚生年金額 | 実際に上乗せされる遺族厚生年金 | 厚生年金部分の受給合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 年70万円 | 約100万円 | 約101.5万円 | 約101.5万円 | 約31.5万円 | 約101.5万円 |
| 年100万円 | 約100万円 | 約116.5万円 | 約116.5万円 | 約16.5万円 | 約116.5万円 |
| 年150万円 | 約100万円 | 約141.5万円 | 約141.5万円(自分の年金より低い) | 0円(支給停止) | 150万円 |
| 年180万円 | 約100万円 | 約156.5万円(自分の年金より低い) | ー | 0円(支給停止) | 180万円 |
※上記は仮の前提(亡くなった配偶者の老齢厚生年金133万円)による試算例です。実際の金額は個々の年金記録によって異なります。老齢基礎年金は別途、全額が上乗せされます。
この表から分かるのは、自分の老齢厚生年金が年150万円を超えたあたりから、遺族厚生年金の上乗せはなくなるという点です(前提条件によって金額は変わりますが、傾向としてこの構造は共通です)。
事例で見る3つのパターン
事例1:自分の年金が少なめのAさん(老齢厚生年金 年70万円)
Aさんは厚生年金の加入期間が比較的短く、自分の老齢厚生年金は年70万円です。この場合、遺族厚生年金の方が高く計算されるため、差額の約31.5万円が遺族厚生年金として上乗せされ、厚生年金部分だけで年間約101.5万円を受給できます。ここに老齢基礎年金が別途加算されます。
事例2:ちょうど中間くらいのBさん(老齢厚生年金 年100万円)
Bさんは会社員として長く勤め、老齢厚生年金は年100万円です。この場合も遺族厚生年金の方が高いため、約16.5万円が上乗せされ、厚生年金部分の合計は約116.5万円になります。自分の年金が増えるほど、上乗せ額は目減りしていくのが分かります。
事例3:自分の年金が多いCさん(老齢厚生年金 年150万円)
Cさんは厚生年金に長期間加入し、給与水準も高かったため、老齢厚生年金は年150万円です。この場合、計算式で出てくる遺族厚生年金額(約141.5万円)よりも自分の老齢厚生年金の方が高いため、遺族厚生年金は全額支給停止になります。受け取れるのは自分の老齢厚生年金150万円のみです。
もらい方によるメリット・デメリット
65歳以降のこの仕組みは自動的に計算されるものであり、「どちらを選ぶか」という選択制ではありません(65歳未満のうちは遺族厚生年金と老齢基礎年金のみを受給し、老齢厚生年金は請求しない、という選び方もできますが、65歳以降は自動的に併給調整が行われます)。そのうえで押さえておきたいポイントは次の通りです。
- メリット:自分の老齢厚生年金が少ない方ほど、遺族厚生年金による上乗せの恩恵が大きい。特に厚生年金の加入期間が短かった方にとっては、大きな支えになる
- デメリット:厚生年金に長く加入し自分の年金額が増えるほど、遺族厚生年金の上乗せは減り、最終的にはゼロになる。「働いて厚生年金を増やしたのに、その分がまるまる手取り増にならない」という感覚を持ちやすい
- ポイント:とはいえ、遺族厚生年金が停止になっても、自分の老齢厚生年金自体は当然全額受け取れるため、トータルで損をしているわけではありません。あくまで「厚生年金部分は、高い方の金額が受給額の上限になる」という仕組みだと理解しておくことが大切です
65歳になる前にしておくべきこと・手続きの注意点
1. 老齢厚生年金の「繰下げ受給」はできない、または増額のメリットが薄れる
老齢厚生年金を繰り下げると年金額を増やせる制度がありますが、66歳までに遺族厚生年金の受給権を持っている場合、老齢厚生年金の繰下げ受給はできません。また、繰下げ待機中に遺族年金の受給権が発生した場合も、その時点で増額率が固定され、それ以上は増えません。すでに遺族厚生年金を受給している方は、老齢厚生年金の繰下げは選択肢にならない点を押さえておきましょう。
2. 中高齢寡婦加算が終了する
40歳から65歳未満の間、遺族厚生年金に上乗せされていた「中高齢寡婦加算」は、65歳になると原則終了します。生年月日によっては「経過的寡婦加算」に切り替わりますが、いずれにせよ65歳到達時に年金の内訳が変わることを事前に理解しておく必要があります。
3. 年金請求書の手続きを忘れない
65歳になる前に、日本年金機構から「年金請求書(ハガキ形式のお知らせ)」が届きます。老齢厚生年金は自動的に切り替わるわけではなく、自分で請求手続きをする必要があります。手続きが遅れると、その間の年金を一時的に受け取れなくなる可能性があるため、届いたら早めに対応しましょう。
4. ねんきん定期便・年金事務所で自分の見込み額を確認しておく
自分の老齢厚生年金の見込み額と、現在の遺族厚生年金額を照らし合わせておくことで、65歳以降の受給総額をあらかじめ把握できます。「ねんきん定期便」や年金事務所での試算依頼を活用し、65歳になる前に一度シミュレーションしておくことを強くおすすめします。
まとめ
- 老齢基礎年金は65歳以降も全額受給できるが、厚生年金部分は「自分の老齢厚生年金」と「遺族厚生年金の計算額」の高い方が基準になる仕組み
- 自分の老齢厚生年金が少ないほど遺族厚生年金の上乗せは大きく、多いほど上乗せは減り、やがてゼロになる
- 遺族厚生年金の受給権がある場合、老齢厚生年金の繰下げ受給は基本的にできない
- 65歳到達時は中高齢寡婦加算の終了、年金請求書の提出など、事前に知っておくべき手続きがある
- 事前にねんきん定期便や年金事務所での試算を活用し、65歳以降の受給額を把握しておくことが安心につながる
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の年金額を保証するものではありません。実際の受給額や手続きについては、日本年金機構・年金事務所に必ずご確認ください。
参考にしたサイト
