先日、50代のクライアント様からこんなご相談を受けました。
「本で読んだのですが、50代・60代・70代と年代ごとに、年齢と同じ割合で債券を持ち、残りを株式と現金で持つのがいいと書いてありました。私は50代ですが、どういうポートフォリオにするのがいいでしょうか?」
よく知られた「年齢=債券比率」という考え方です。理屈としては分かりやすいのですが、私がお答えしたのは、それとは違う結論でした。「生活防衛資金と安心できる現金、そして残りはすべてオルカン(好みでS&P500でも可)でいいと思います」——今回はこのお話を、10分程度で読める形にまとめました。
なぜ「年齢=債券比率」を勧めなかったのか
「100−年齢=株式比率、残りを債券」というルールは、米国の伝統的な資産配分理論として広く知られています。50代なら債券50%、60代なら債券60%……というイメージです。
このルールには一定の合理性がありますが、実際の相談現場で感じるのは、年代ごとに資産クラスの比率を細かく管理すること自体が、多くの人にとって「継続の負担」になるという点です。相場が動くたびにリバランスが必要になり、しかも債券は株式ほどのリターンを見込みにくい資産です。年齢が上がるほど資産管理を複雑にしていくルールは、実務上はむしろ長続きしないケースが多いというのが実感です。
私がお伝えした答え:「生活防衛資金+現金+オルカン」
私がお伝えしたポートフォリオの考え方はシンプルです。
- 生活防衛資金(生活費の半年〜2年分程度)を、まず現金で確保する
- 安心して持っていられる現金を、生活防衛資金に上乗せして確保する
- 残りはすべてオルカン(全世界株式インデックスファンド)、好みでS&P500に置き換えてもよい
債券をあえて組み込まない理由は、債券より株式の方が長期的な利率(期待リターン)が高く、成長性があるからです。もちろん株式は値動きが大きく、不景気になれば株価は下落します。しかし、そこで役立つのが手元の現金です。
「不景気で株価が下がっても、現金で乗り切れる」という考え方
過去の代表的な株価暴落を振り返ると、下落から回復までの期間には次のような目安があります。
| 出来事 | 下落幅の目安 | 回復までの期間の目安 |
|---|---|---|
| リーマンショック(2008年) | 最大45%程度 | 約22ヶ月(約2年弱) |
| コロナショック(2020年) | 約31%(約1ヶ月で下落) | 1年未満で回復 |
もちろん暴落の種類によっては回復に数年単位を要するケースもありますが、代表的な暴落局面ではおおむね1〜2年程度で回復基調に戻ることが多いというのが実際のデータです。
つまり、株価が下がっている間の生活費を現金でまかなえる状態にしておけば、値下がりしたオルカンを慌てて売る必要がなくなります。この「待てる仕組み」こそが、株式中心のポートフォリオを持つうえで最も重要な設計だと考えています。
大事なのは「どれから取り崩すか」で迷わないこと
資産形成がある程度進んだ方によく見られる悩みが、「複数の資産(株式・債券・現金・高配当株など)を持っているため、いざ取り崩す段階になって、どれから売ればいいのか分からず、結局取り崩せない」という状態です。
資産の種類が多いほど、次のような判断が必要になります。
- 値上がりしている資産から売るべきか、値下がりしている資産から売るべきか
- 税金(譲渡益課税)の観点でどれを優先すべきか
- 配当・利金が出る資産は温存すべきか
この判断の複雑さが、結果として「資産はあるのに使えない」という状態を生み出します。年齢を重ねるごとに、むしろポートフォリオはシンプルにしていく方が、管理のしやすさという点で理にかなっています。
ネット証券の「定期売却サービス」で年金のように使う
オルカン1本にシンプル化しておくと、取り崩しの実務も驚くほど楽になります。多くのネット証券会社では、投資信託の「定期売却サービス」が用意されています。
- SBI証券:投資信託定期売却サービスとして「定額」「定率」「期間指定」の3方式に対応(NISA口座にも対応)
- 楽天証券:定期売却サービスとして「金額指定(定額)」「定率指定」「期間指定」の3方式が選択可能(NISA口座にも対応)
これらを使えば、たとえば「毎月5万円ずつ自動で売却して受け取る」といった設定が可能で、まるで年金のように、決まった金額が自動的に口座へ振り込まれる仕組みを作ることができます。複数の資産をその都度手動で売却する必要がなく、管理の手間が大きく減ります。
ライフプランで「いくらまで下ろせるか」を決めておく
このシンプルな仕組みを最大限活かすには、事前にライフプランを作成し、「毎月・毎年いくらまでなら取り崩してよいか」を明確にしておくことが重要です。
- 生活防衛資金と必要な現金を確保したうえで
- 残りのオルカンから、年間いくらまでなら取り崩しても資産が枯渇しないかを試算する
- その金額の範囲内で、定期売却サービスを設定する
一度この金額を決めてしまえば、「使いすぎているのでは」と気にする必要がなくなります。お金の心配に脳のリソースを割かなくて済むようになった分、人生をどう楽しむかにエネルギーを使えるようになり、結果として充実した人生につながる——これが、資産管理をシンプルにする一番の効能だと考えています。
債券・高配当株を否定するわけではない
もちろん、債券や高配当株を保有すること自体を否定しているわけではありません。ただし、これらの資産を持つ場合は、「いつ売却するのか」という出口戦略を明確にしておく必要があります。
実際の相談現場での実感として、この出口戦略を明確に描けている方は決して多くありません。だからこそ、多くの方にとっては「オルカンと現金の2種類」というシンプルな構成の方が、最終的にきちんと使い切れる、実践的なポートフォリオになると考えています。
まとめ
- 「年齢=債券比率」というルールは分かりやすいが、実務上は管理が複雑になりやすい
- 生活防衛資金+安心できる現金を確保したうえで、残りはオルカン(またはS&P500)に集中させるシンプルな構成が現実的
- 株価下落時は現金で生活費をまかない、回復(過去実績ではおおむね1〜2年程度)を待てる仕組みを作っておく
- 資産の種類が多いほど「取り崩しの迷い」が生まれるため、年齢を重ねるほどシンプルな構成が管理しやすい
- ネット証券の定期売却サービスを使えば、年金のように自動でお金を受け取れる
- ライフプランで取り崩し可能額を決めておけば、お金を気にせず人生を楽しむことに集中できる
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。実際の資産配分・取り崩し方針については、ご自身の状況に応じて専門家にご相談ください。
参考にしたサイト
