親御さんと相続の話——これだけは聞いておきたいこと&生前贈与・相続時精算課税・家族信託の注意点

「うちはそんなに財産がないから大丈夫」——相続の話になると、多くのご家庭でこう言われます。しかし実際には、財産の多い少ないに関わらず、話し合いをしていなかったために、兄弟・姉妹間でもめてしまうケースが後を絶ちません。

この記事では、親御さんが元気なうちに聞いておきたいこと、そして生前贈与・相続時精算課税・家族信託という3つの対策について、それぞれの特徴と気をつけるべき点を整理します。

親御さんとこれだけは話しておきたいこと

難しい話を切り出す必要はありません。まずは次のようなことを、少しずつ確認しておくだけでも大きな違いがあります。

  • 財産の全体像——預貯金、不動産、株式・investment、生命保険、借入金の有無など、どこに何があるか
  • 実家(不動産)をどうしたいか——将来住み続けるのか、売却するのか、誰が引き継ぐのか
  • 誰にどう遺したいか、という本人の意思——遺言書の有無、家族への想い
  • 認知症など判断能力が低下したときの備え——財産管理を誰に任せたいか
  • お葬式・お墓についての希望
  • かかりつけ医や持病、保険証券など「もしも」のときに必要な情報の保管場所

これらを一度に聞き出そうとせず、「エンディングノート」のような書式を活用しながら、帰省のタイミングなどで少しずつ書き足してもらうのがおすすめです。

生前贈与

生前贈与とは、生きているうちに財産を子や孫に渡しておく方法です。もっとも一般的なのが「暦年課税」で、年間110万円までの贈与には贈与税がかかりません。

⚠️ 気をつける点:「7年内加算ルール」が段階的に広がっています
亡くなる直前の贈与は、たとえ非課税枠内であっても相続財産に足し戻して相続税を計算する仕組みがあります。この足し戻し期間が、2024年の税制改正で「3年」から「7年」に延長されました。ただし急に7年になるわけではなく、下の表のとおり段階的に延びていきます。

相続が発生する時期足し戻し(加算)の対象期間
2026年12月31日まで亡くなる前 3年間
2027年1月〜2030年12月2024年1月1日〜亡くなった日まで(徐々に延びる)
2031年1月1日以降亡くなる前 7年間(完全移行)

なお、延長された4年間分の贈与については、合計100万円までは相続財産に加算しなくてよいという緩和措置もあります。「まだ先の話」と思わず、早めに贈与を始めるほど、加算対象になりにくいという点は覚えておきましょう。

生前贈与の注意点

  • 毎年同じ時期・同じ金額で贈与を続けると、税務署から「はじめから一括で贈与する予定だった」とみなされる(定期贈与)リスクがあるため、時期や金額を変える、贈与契約書を都度作成するなどの工夫が必要
  • 贈与された側(子・孫)が、口座の存在自体を知らない「名義預金」とみなされないよう、通帳や印鑑は本人が管理する
  • 認知症などで判断能力が低下すると、それ以降は本人の意思による贈与ができなくなる

相続時精算課税制度

相続時精算課税は、累計2,500万円までの贈与について贈与税がかからない(超えた分は一律20%課税)代わりに、贈与した財産を相続のときにまとめて精算する制度です。2024年の改正で、この制度にも新たに「年間110万円」の基礎控除が設けられました。

暦年課税相続時精算課税
年間の非課税枠110万円110万円(2024年改正で新設)
別枠の非課税枠なし累計2,500万円(超過分は一律20%課税)
相続財産への加算死亡前3〜7年分(段階的に延長中)年110万円の基礎控除部分は加算されない。それ以外は全額加算
制度の後戻り可能一度選択すると同じ親からの贈与について暦年課税に戻れない

⚠️ 気をつける点:一度選んだら後戻りできない
相続時精算課税は、同じ贈与者(親)からの贈与について、一度選択すると暦年課税に戻すことができません。将来的にコツコツ贈与をしていきたいのか、まとまった金額を早めに動かしたいのかによって、向き・不向きが分かれます。また、この制度で贈与した不動産は、相続時に使える「小規模宅地等の特例」の対象から外れる場合があるなど、他の特例との組み合わせにも注意が必要です。

家族信託

家族信託は、財産を持つ親(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・運用を託す仕組みです。認知症などにより判断能力が低下すると、銀行口座が凍結され、本人名義の預金が引き出せなくなったり、不動産の売却ができなくなったりするリスクがありますが、家族信託を活用しておくことで、こうした「資産凍結」を避けやすくなります。

家族信託の主な特徴内容
契約の当事者委託者(親)・受託者(管理を託される家族)・受益者(利益を受け取る人)
最大のメリット認知症になっても、受託者が財産の管理・処分を続けられる
対象にできる財産預貯金、不動産、自社株式など、契約で定めた財産
成年後見制度との違い家庭裁判所の関与が原則不要で、柔軟な財産活用がしやすい

⚠️ 気をつける点
①契約は親(委託者)の判断能力があるうちにしか結べません。認知症の診断が出てからでは手遅れになるケースが多く、「元気なうちの早めの検討」が何より重要です。②いったん契約すると、親の判断能力が低下した後は内容の変更が原則できません。③信託財産から年間3万円以上の収益がある場合、受託者は税務署へ「信託の計算書」を提出する義務があるなど、事務負担が発生します。④信託契約書の作成には専門家への相談費用がかかります。

結局、どれを選べばいいのか

目的向いている対策
コツコツ非課税で財産を渡したい生前贈与(暦年課税)
まとまった財産を早めに動かしたい、値上がりが見込める資産を早く渡したい相続時精算課税
認知症による資産凍結が心配家族信託
遺言としての意思表示をしっかり残したい(別途)公正証書遺言の作成

これらは互いに排他的なものではなく、組み合わせて使うことも可能です。ご家族の状況や財産の内容によって最適な組み合わせは変わるため、早めに専門家に相談しながら方針を決めていくことをおすすめします。

まとめ

相続対策で最も大切なのは、制度を使いこなすことよりも、親御さんが元気なうちに家族で話し合い、意思を確認しておくことです。生前贈与・相続時精算課税・家族信託は、それぞれ目的も注意点も異なるため、「なんとなく」ではなく、目的に合わせて選ぶことが失敗を防ぐポイントになります。

ご家族の相続対策や生前贈与の進め方について相談したい方は、お気軽にFPやまぎしにご相談ください。

参考情報

この記事を書いた人

fp.yamagishi

金融機関に勤務しながら、副業でファイナンシャル・プランナーをしています。大学卒業後に金融機関に勤め、10年勤務した後、同業に転職。
25年以上の金融機関勤務経験を活かし、皆さんの資産運用・お金の問題を支援できましたらと考えています。

【資格】
・ファイナンシャルプランナー(CFP)
・FP技能検定1級取得
・貸金業取扱主任者