岩手県立美術館レポート——萬鐵五郎・松本竣介、ここでしか感じられない「岩手の魂」を見に行く

盛岡に行くなら、ぜひ足を運んでほしい場所がある。岩手県立美術館だ。正直、アクセスは少し不便だ。駅からバスか車でないとたどり着けない。でも、だからこそ——来た人だけが感じられるものがある。この記事では、実際に訪れた印象をもとに、美術館の見どころ・歴史・行き方まで、「行きたい」と思ってもらえるようにまとめた。

岩手県立美術館とは——盛岡の緑の中に佇む現代建築

岩手県立美術館は、2001年に開館した比較的新しい美術館だ。盛岡市中央公園の広大な緑の中に建てられており、建物自体がすでに一つの体験になっている。設計は安田幸一氏(東京工業大学教授)による現代的な建築で、展示室は白を基調とした明るく開放的な空間。動線がよく設計されていて、年齢を問わず歩き疲れることなく全室を見て回れる点も好印象だ。

館内は大きく常設展示室(コレクション展)企画展示室に分かれており、岩手が生んだ3人の芸術家——萬鐵五郎・松本竣介・舟越保武を柱とした充実したコレクションが常設で楽しめる。企画展は年数回開催され、国内外の多彩な展覧会が行われる。

項目内容
開館2001年(平成13年)
所在地岩手県盛岡市本宮字松幅12-3(盛岡市中央公園内)
開館時間9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始(12/29〜1/3)
観覧料コレクション展:一般310円ほか(企画展は別途)

萬鐵五郎——日本の「前衛」はこの岩手の画家から始まった

美術館の大きな柱の一つが、萬鐵五郎(よろず てつごろう、1885〜1927)のコレクションだ。岩手県土沢(現・花巻市東和町)生まれの彼は、東京美術学校を卒業した1912年、卒業制作「裸体美人」で日本画壇に衝撃を与えた。フォーヴィスム(野獣派)の大胆な色彩と筆致は、当時の日本では完全に異端だったが、今日ではこの作品が日本近代美術の出発点のひとつとして評価されている。

その後、キュビスムに影響を受けた「もたれて立つ人」(1917年)など、わずか10年余りの画業で次々に先鋭的な表現を試み、42歳で早逝した。

岩手県立美術館には、この萬鐵五郎の多数の油彩・素描が収蔵されており、東京の主要美術館でも一部しか見られない作品群がここに揃っている。「こんなにまとまって萬の作品を見られる場所は、ここ以外にない」と感じた。力強い線と鮮やかな色使いに、明治・大正期の日本が抱えていた「西洋と日本の間の葛藤」を見た気がした。

松本竣介——聴こえない世界で描き続けた、透明な都市の詩人

もう一人の中核的な存在が、松本竣介(まつもと しゅんすけ、1912〜1948)だ。東京生まれだが幼少期から盛岡で育ち、中学1年のときに聴力を失った。その経験が彼の画業に深く影を落としている。

松本が描くのは、東京の橋・街角・建物・自画像——都市の風景だ。しかしその絵には、騒がしさがまったくない。音のない世界から見つめ続けた都市は、彼の絵の中で独特の静けさと透明感をまとっている。「Y市の橋」「立てる像」などの代表作を見ていると、じわりと胸に何かが沁みてくる。

36歳で結核により夭折するまで、彼は軍国主義が台頭する時代にあっても自分の表現を曲げなかった。その一貫した誠実さが、絵の透明感に通じているのかもしれない。岩手県立美術館は松本竣介作品の国内最大級のコレクションを誇り、その多様な画業を一堂に見渡せる贅沢な展示が常設されている。

舟越保武——石が語りかける、静謐な彫刻の世界

3人目の柱は、舟越保武(ふなこし やすたけ、1912〜2002)。岩手県二戸生まれの彫刻家で、大理石を用いた繊細で内省的な彫刻で知られる。特に宗教的主題の作品群——聖母や殉教者をモチーフにした彫像は、石とは思えない柔らかさと魂のこもった表情を持つ。展示室に足を踏み入れると、静かな緊張感がある。彫刻たちが静かに「こちら」を向いているような感覚だ。

建物・館内の印象——見やすく、疲れにくい、現代的な空間

美術館の建物自体も見どころだ。盛岡市中央公園の自然に囲まれた敷地に建てられた現代建築は、外から見ると周囲の緑と溶け合うように低く落ち着いた印象を与える。

館内は天井が高く、自然光をうまく取り込んだ設計で、長時間いても疲れにくい。展示室の動線はシンプルで迷いにくく、「美術館って難しそう」という方でも自然な流れで全体を見て回れる。ミュージアムショップは充実しており、萬鐵五郎・松本竣介関連の図録や絵葉書などが揃っている。レストランはないが、カフェスペースがあり、公園の緑を眺めながら一息つける。

行き方——盛岡駅から「ひと手間」かかるが、それだけの価値はある

ここだけは正直に書いておきたい。アクセスは若干不便だ。盛岡駅から徒歩で行こうとすると約20分かかる。バスはあるが本数が多くないため、時刻表を事前に確認しておくことをすすめる。

移動手段乗り場・ルート所要時間料金
バス(おすすめ)盛岡駅東口(10番乗り場)→岩手県交通「盛南ループ200」左回り→「県立美術館前」下車約13分250円
バス(右回り)盛岡駅東口(5番乗り場)→同路線右回り約31分250円
タクシー盛岡駅西口から約5分目安700〜900円
徒歩盛岡駅から約20分
東北自動車道・盛岡ICから約10分、駐車場あり(無料)約10分無料

バスは「左回り(下川原先回り)」が最短の約13分で便利。ただし本数が限られるため、帰りの時刻も事前に調べておこう。帰りはタクシーを利用するか、盛岡市中央公園を散歩しながら戻るのも一つの楽しみ方だ。車であれば駐車場が無料で広く、最もストレスなくアクセスできる。

こんな人に特におすすめ

  • 日本近代美術・前衛美術に興味がある人:萬鐵五郎のコレクションはここでしか得られない体験だ
  • 静かにアートと向き合いたい人:混雑が少なく、ゆっくり鑑賞できる環境が整っている
  • 盛岡旅行の「もう一か所」を探している人:わんこそば・冷麺だけじゃない、盛岡の深さを感じられる
  • 建築や空間デザインに興味がある人:美術館建築として完成度の高い空間体験ができる
  • 彫刻に興味がある人:舟越保武の石彫は、実物を目の前にして初めてその静謐さが伝わる

まとめ——「遠い」からこそ、行く価値がある

岩手県立美術館は、華やかな話題作を追うタイプの美術館ではない。でも、萬鐵五郎・松本竣介・舟越保武という岩手が生んだ3人の芸術家の作品と、この場所でじっくり向き合う体験は、どこにも代えがたいものだ。

「駅から遠い」という難点は確かにある。でも逆に言えば、それだけ「目的を持って来る人」しかいない場所だ。美術館の空気が穏やかで、展示に集中できる理由の一つかもしれない。盛岡を訪れる機会があれば、ぜひスケジュールに組み込んでほしい一館だ。

【岩手県立美術館 基本情報】
住所:岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話:019-658-1711
開館時間:9:30〜18:00(入館17:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始
公式サイト:https://www.ima.or.jp/

この記事を書いた人

fp.yamagishi

金融機関に勤務しながら、副業でファイナンシャル・プランナーをしています。大学卒業後に金融機関に勤め、10年勤務した後、同業に転職。
25年以上の金融機関勤務経験を活かし、皆さんの資産運用・お金の問題を支援できましたらと考えています。

【資格】
・ファイナンシャルプランナー(CFP)
・FP技能検定1級取得
・貸金業取扱主任者