「お金を使う力」は練習が必要です——思い出の配当金を増やしていきませんか

「お金を使うなんて、簡単でしょう?」——多くの方がそう思うかもしれません。でも、ファイナンシャルプランナーとして多くの方のご相談を受ける中で、逆のお悩みを抱えている方が少なくないことに気づきました。

コツコツと資産運用を続け、十分な資産を築いた方ほど——「お金が使えない」「使うのが怖い」「どう使っていけばいいのかわからない」という声を聞くのです。

この記事は、そんな方に向けて書きました。60歳以上の方、長年まじめに貯めてきた方、自分へのご褒美に慣れていない方、ぜひ最後まで読んでみてください。

■ なぜ「お金を使えない」のか?

長い時間をかけて倹約を続け、コツコツと積み上げてきた方にとって、「お金を使う」という行為は、ある意味で「これまでの自分を否定するような感覚」につながることがあります。

「もったいない」「まだ使わなくていい」「何かあったときのために取っておかなければ」——こうした気持ちは、長年の習慣から生まれた、とても真面目で誠実な生き方の証です。

しかし、その習慣がいつの間にか「お金を使うことへの罪悪感」に変わってしまっていることがあります。楽しいはずの旅行の計画を立てても「こんなにかかるのか」と不安になる。子どもや孫に何かしてあげたくても「使いすぎかな」と躊躇してしまう。そういった状態です。

■ お金はあくまで「手段」です

少し立ち止まって、根本的なことを考えてみましょう。

お金は「目的」ではなく「手段」です。

お金そのものに価値があるのではありません。お金は、人生を楽しみ、充実させ、大切な人との時間を豊かにするための「道具」です。

通帳の残高が増えることは、手段の確保です。でも、その手段を使わないまま人生を終えてしまったとしたら——目的である「豊かな人生」を果たして手に入れられたと言えるでしょうか。

あの世までお金は持っていけません。亡くなる瞬間に「一番のお金持ち」であることは、決して誇れることではないはずです。

■ 「思い出の配当金」を増やしていきましょう

投資をされてきた方には、「配当金」という言葉が身近なはずです。

私はよく、こんな言葉をお伝えします。

「思い出の配当金を、もっと増やしていきませんか」

孫と一緒に旅行した記憶。長年行きたかったあの場所への旅。友人との食事会。大好きな趣味に思い切り時間とお金をかけた体験。家族に伝えたかった言葉を形にした贈り物。

これらはすべて「思い出の配当金」です。お金の配当金は、受け取っても心の記憶には残りません。でも、思い出の配当金は——何年経っても、体が弱ってベッドの上にいる時でも——温かく心を照らし続けてくれます。

資産を増やすことに長けていた皆さんなら、これからは「思い出の配当金を増やす投資」をしていただきたいのです。

■ それでも「使えない」あなたへ——お金を使う練習法

「わかった。でも、どうしても使えない……」という方のために、具体的な「お金を使う練習」をご紹介します。いきなり大きな金額を使おうとしなくて大丈夫です。小さなステップから始めていきましょう。

練習① 月に一度「自分へのご褒美」予算を作る

まず、月に1万円(無理なら5,000円でも)を「自分のために使っていい予算」として決めてしまいましょう。

ポイントは「使い切ること」を目標にする点です。何に使うかは自由。ちょっといい食事でも、本でも、花でも、温泉の入浴料でも構いません。「使い切る」という経験を積み重ねることで、お金を使うことへの罪悪感が少しずつ薄れていきます。

練習② 「一生に一度リスト」を作る

「死ぬまでに一度はやってみたいこと」「行ってみたい場所」「会いたい人」をノートに書き出してみてください。10個でも20個でも。

リストにすることで、「お金の使い道」が具体的に見えてきます。漠然と「使わなければ」と思うより、「これを実現するために使う」という目標があった方が、お金は動かしやすくなります。

リストができたら、年に1〜2個を実現することを目標にしましょう。

練習③ 「誰かのために使う」から始める

自分のためにお金を使うことへの抵抗が強い場合、「誰かのために使う」ことから始めるのも効果的です。

孫へのプレゼント、子どもへの食事のご馳走、友人への手土産……。「誰かを喜ばせるためのお金」には、罪悪感を感じにくいものです。そして、誰かが喜んでくれることで「お金を使う喜び」を体で実感できます。その喜びが、自分のためにお金を使う練習にもつながっていきます。

練習④ 「体験」にお金を使う

モノを買うよりも、「体験」にお金を使う方が、後悔が少ない傾向があります。これは心理学の研究でも示されていることです。

旅行、コンサート、料理教室、習い事、温泉旅行、日帰りの小旅行——体験はモノと違って「場所を取らない」し「捨てる必要がない」。そして何より、思い出として心に残り続けます。

まず小さな体験(日帰り旅行など)から始めて、「こんなに楽しかった」という記憶を積み上げていきましょう。

練習⑤ 「年間の使い道計画」を作る

資産運用が得意な方は「計画を立てる」ことが得意なはずです。その強みをお金を使う側にも活かしてみましょう。

「今年は旅行に〇〇万円、孫への贈り物に〇〇万円、趣味に〇〇万円を使う」と年初に計画を立てるのです。計画に沿ってお金を使うことで、「使いすぎ」への不安が減り、安心して使えるようになります。

■ 「いくら使っていいか」がわからない方へ

「どれくらい使っていいのか基準がわからない」というお声も多くいただきます。

簡単な目安の考え方をお伝えします。

  • 現在の資産総額から、「どうしても残したい金額」(葬儀費用・子どもへの相続等)を引く
  • 残った金額を、余命の年数で割る
  • その金額が「毎年使える上限の目安」

たとえば、資産3,000万円のうち500万円を残したいとして、余命20年と仮定すると、毎年125万円(月約10万円)を使っても資産は枯渇しません。年金や運用益があれば、さらに余裕が生まれます。

「計算してみたら、思っていたよりずっと使えることがわかった」という方も多いのです。まずは数字で確認することで、漠然とした不安が和らぎます。

より精度の高いシミュレーションをご希望の方は、ファイナンシャルプランナーに相談することもお勧めします。

■ まとめ

  • お金を使えない・使うのが怖い、という方は珍しくありません
  • でもお金は手段——目的は人生を楽しみ、充実させること
  • あの世まではお金は持っていけない。「思い出の配当金」を増やすことが大切
  • 月1万円の「自分へのご褒美予算」から練習を始めよう
  • 「一生に一度リスト」を作り、年に1〜2個実現していく
  • 「誰かのために使う」「体験にお金を使う」から始めるのが続けやすい
  • 「年間の使い道計画」を立てると、不安なく使えるようになる
  • 「いくら使っていいか」は計算すると意外と多い

長い年月をかけて積み上げてきた資産は、あなたの努力の結晶です。その結晶を、残りの人生を豊かに彩るために、少しずつ使い始めてみてください。

死ぬ時に「あれをやっておけばよかった」と後悔するより、「あれをやってよかった」という思い出で満たされた人生の方が、ずっと豊かだと思いませんか。

今からでも、遅くはありません。「思い出の配当金」を、一つひとつ、増やしていきましょう。

【FPからのひとこと】「いくら使っていいか不安」という方はぜひ一度、ライフプラン表(収支の将来計画)を一緒に作ってみましょう。数字で確認できると、お金を使うことへの不安がぐっと減ることが多いです。

この記事を書いた人

fp.yamagishi

金融機関に勤務しながら、副業でファイナンシャル・プランナーをしています。大学卒業後に金融機関に勤め、10年勤務した後、同業に転職。
25年以上の金融機関勤務経験を活かし、皆さんの資産運用・お金の問題を支援できましたらと考えています。

【資格】
・ファイナンシャルプランナー(CFP)
・FP技能検定1級取得
・貸金業取扱主任者