「定期預金より金利が高い」「元本は保証されている」——そんな説明を銀行の窓口で受けたことはありませんか?
それは「仕組み預金」かもしれません。名前に「預金」とついているので安全そうに見えますが、実態は非常に複雑で、思わぬ落とし穴があります。
2026年、金融庁はついに仕組み預金への規制強化に本格的に乗り出しました。日本経済新聞(2026年6月)は「金融庁、『仕組み預金』にメス——誤算の金利上昇で解約トラブル相次ぐ」と報じています。
今回は、FPの立場からはっきり申し上げます。仕組み預金は、ほとんどの方にとって必要のない商品です。その理由を、わかりやすくお伝えします。
1. 仕組み預金とは何か?——普通の定期預金との違い
一見「お得な定期預金」に見えるが……
仕組み預金とは、普通の定期預金に「デリバティブ(金融派生商品)」を組み合わせた預金商品です。
デリバティブとは、将来の金利・為替・株価などの変動を利用して利益を得る金融取引のこと。これを預金に組み込むことで、一般の定期預金より高い金利(利回り)を実現しています。
しかしその「高金利」の裏には、預金者が知らないうちに引き受けさせられているリスクがあります。
普通の定期預金との比較
| 項目 | 普通の定期預金 | 仕組み預金 |
|---|---|---|
| 金利 | 低め | 高め(その分リスクがある) |
| 満期日 | 固定(自分で決められる) | 銀行が延長する場合あり |
| 中途解約 | できる(利息が減るだけ) | 原則できない、または元本割れ |
| 元本保証 | あり(預金保険対象) | 円建てなら元本保証、ただし実質的なリスクあり |
| 複雑さ | シンプル | 複雑(デリバティブ内包) |
代表的な仕組み預金の種類
- コーラブル預金(早期償還型):銀行側が「満期を早める」または「延長する」権利を持つ預金。金利が上がったとき、銀行に都合の良いように動く
- デュアルカレンシー預金(二重通貨預金):円で預けても、満期時に「円か外貨か」を銀行が決められる預金。為替が動くと外貨で戻ってくることがある
- パワードカレンシー預金:さらに複雑な為替条件が付いた外貨系の仕組み預金
2. 金融庁が規制を強める——何が問題だったのか?
苦情が急増した背景
2024年以降、日本では日銀の利上げによって市場金利が上昇しました。普通預金や新しい定期預金の金利も上がり始めましたが、仕組み預金に預けていた人は「古い低金利のまま預け続けるしかない」という事態に陥りました。
「金利が上がっているのに、なぜ解約できないのか」「満期が延長されて身動きが取れない」という苦情が銀行や金融庁相談窓口に相次いで寄せられたのです。
金融庁の規制強化の内容(2026年)
日本経済新聞(2026年6月)の報道によると、金融庁は「2026年夏にも監督指針を改正し、仕組み預金の規制を強化する」方針を固めました。
主な改正の方向性:
- 解約制限のリスクを顧客向け説明資料に明記することを義務化:「中途解約できない」「元本割れの可能性がある」ことを、目立つ形で書くよう銀行に求める
- 説明不足は検査・監督の対象に:ルールを守らない銀行は金融庁の立入検査や業務改善命令の対象となりうる
- パブリックコメント(意見公募)を経て正式施行:2026年内に制度変更の完成を目指す
これは言い換えれば、「これまで銀行が都合の悪いことをきちんと説明していなかった」ことを金融庁が認めたようなものです。
3. 仕組み預金のトラブル事例
事例① 「いつの間にか満期が5年延長された」
Aさん(60代・女性)は3年満期の仕組み預金に500万円を預けました。満期が来たと思っていたところ、銀行から「コーラブル特約の条件により、満期を5年延長します」との通知が届きました。
その時点では市場金利がすでに上昇しており、Aさんは低金利のまま5年間も資金を拘束されることに。「解約できないのですか?」と銀行に聞いたところ、「中途解約は原則できません。解約する場合は数十万円の違約金相当が差し引かれます」と言われました。
事例② 「円で預けたのに外貨で戻ってきた」
Bさん(50代・男性)は「円建てで元本保証」と聞いてデュアルカレンシー預金に300万円を預けました。しかし満期時、円高が進んでいたため銀行が「外貨(米ドル)での払い戻し」を選択。ドルで戻ってきた資産を円に換えると、元本を大きく下回っていました。
「元本保証と聞いていた」と訴えましたが、銀行は「外貨建ての元本は保証していますが、為替差損は保証外です」と返答。契約書にはたしかにそう書かれていました。
事例③ 「相続のために使いたかったのに引き出せない」
Cさん(70代・男性)は老後の備えとして仕組み預金に1,000万円を預けていました。急に介護施設への入居が必要になり、費用として引き出そうとしましたが「満期まで原則解約不可」と言われ、やむなく別のお金を工面することになりました。急な出費への備えとして仕組み預金は機能しなかったのです。
4. 仕組み預金の7つのリスク
① 中途解約できない(流動性リスク)
原則として満期まで解約できません。急にお金が必要になっても引き出せない可能性があります。解約できる場合でも、デリバティブの清算コストが差し引かれ、元本を大きく割り込むことがあります。
② 満期が延長される(満期延長リスク)
コーラブル預金では、銀行側が満期日を延長する権利を持っています。特に金利が上昇している局面では、「低金利のまま預けさせておいた方が銀行に有利」なため、銀行が満期を延長します。預ける前に何年後の満期になるか、読めません。
③ 外貨で戻ってくることがある(為替リスク)
外貨系の仕組み預金では、円で預けても満期時に外貨で払い戻されることがあります。円高になっていれば円換算で元本割れです。「元本保証」は通貨別の話であり、為替差損は含まれません。
④ 金利上昇局面で損をする(機会損失リスク)
今のように金利が上昇している時代、仕組み預金に縛られていると新しい高金利商品に乗り換えられません。市場金利が1%→3%に上がっても、仕組み預金の金利は固定されたまま。機会損失が生まれます。
⑤ 説明が難しすぎてリスクがわからない(情報非対称リスク)
契約書は数十ページに及び、デリバティブの仕組みを正確に理解している一般の方はほぼいません。銀行側は仕組みを熟知している「プロ」であるのに対し、顧客は素人。この情報格差が、今回の金融庁規制の背景にある本質的な問題です。
⑥ 解約時の違約金が高額(コストリスク)
例外的に中途解約できる場合でも、デリバティブの再構築コストを預金者が負担します。数十万〜百万円以上の違約金相当額が差し引かれることもあります。
⑦ 銀行の利益が大きい(手数料・コスト構造の問題)
仕組み預金は、デリバティブのコストが商品の中に組み込まれており、表面上は手数料が見えません。しかし実際には、高い金利を提供する代わりに銀行側が大きな利益を得る構造になっています。金融商品として、顧客より銀行に有利にできています。
5. すでに契約している方へ——今すぐすべき対策
ステップ① まず「契約内容」を確認する
手元の契約書(商品説明書・取引報告書)を引っ張り出して、以下を確認しましょう。
- 満期日はいつか?延長条件はついているか?
- 中途解約できるか?解約した場合のコストはいくらか?
- 外貨払い戻し条件はついているか?
- 現時点での「時価」や「解約評価額」はいくらか?
ステップ② 銀行に「現状確認」の問い合わせをする
契約している銀行に連絡し、「今解約した場合にいくら戻るか」「満期延長の可能性はあるか」を書面で回答してもらいましょう。口頭だけでなく、必ず書面(メール・郵便)で記録を残すことが重要です。
ステップ③ 損切りを検討する
解約損(違約金相当)が発生するとしても、今後の機会損失や精神的なストレスを考えると、「損切りして乗り換える」ことが合理的なケースもあります。特に満期延長が繰り返されている場合は要検討です。
ステップ④ 満期が来たら更新しない
満期を迎えたとき、銀行から「継続しませんか?」と提案されることがほぼ必ずあります。断固として断り、普通の定期預金や別の運用手段に移すことをおすすめします。
ステップ⑤ 第三者(FP)に相談する
判断に迷う場合は、販売した銀行ではなく、中立的な立場のFP(ファイナンシャルプランナー)や金融相談窓口に相談してください。
- 金融庁「金融サービス利用者相談室」:0570-016811
- 全国銀行協会「銀行とのトラブル相談」:0570-017109
- 国民生活センター「消費者ホットライン」:188
まとめ——仕組み預金には近寄らないために
仕組み預金を一言で言うと、「銀行に有利で、お客さんに不利な商品」です。
金利が高く見えるのは、その分のリスクを預金者が引き受けているから。複雑な仕組みで内容がわかりにくいのは、偶然ではなくそういう設計だから。金融庁が規制に乗り出したのは、長年にわたって被害が続いてきたからです。
仕組み預金を勧められたら、こう答えてください。「結構です、必要ありません。」
普通の定期預金・国債・インデックスファンドなど、シンプルでわかりやすい商品の方が、長期的に見て賢い選択です。「高金利=お得」ではなく、「高金利=高リスク」。この原則をしっかり覚えておきましょう。
参照資料・サイト
- 日本経済新聞「金融庁、『仕組み預金』にメス 誤算の金利上昇で解約トラブル相次ぐ」(2026年6月)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB017GN0R00C26A6000000/
- 金融庁「2025事務年度 金融行政方針」https://www.fsa.go.jp/news/r7/20250829/strategic_priorities_2025_main.pdf
- 全国銀行協会「仕組預金とは」https://www.zenginkyo.or.jp/article/keywords/5199/
- 金融庁「金融サービス利用者相談室」https://www.fsa.go.jp/receipt/soudansitu/
- マネイロメディア「仕組み預金には手を出すなと言われる理由は?7つのリスク」https://moneiro.jp/media/article/structured-deposit-demerit
※本記事はFPとしての一般的な見解です。個別の契約内容については、金融機関またはFP・専門家にご相談ください。
