「NTTが格下げされた」というニュースが2026年5月、金融・投資界隈を騒がせました。NTTといえば、日本を代表するインフラ企業。そんな盤石に見える大企業が、なぜ信用力を落としたのでしょうか?
今回は「格付けとは何か」という基礎から、NTTの業績・戦略、そして投資家としてどう考えるべきかまで、10分でわかるようにまとめました。
① そもそも「格付け」って何?——中学生でもわかる解説
格付けは「お金を貸しても大丈夫かのスコア」
企業や国が銀行からお金を借りたり、「社債」(=企業が発行する借用証書)を発行してお金を集めるとき、投資家は「ちゃんと返してもらえるかな?」と不安に思います。
そこで登場するのが格付け機関です。S&Pグローバル・レーティング、ムーディーズ、フィッチなどの専門機関が、企業の財務状況・収益力・負債の多さなどを細かく分析して、信用力に点数(格付け)をつけます。
格付けの記号はこんなイメージです:
| 格付け(S&P) | わかりやすく言うと | お金を借りる際の金利イメージ |
|---|---|---|
| AAA | 超優良・ほぼ確実に返済できる | 最も低い(信用が高い) |
| AA+〜AA- | 非常に優良 | 低い |
| A+〜A- | 優良 | やや低い |
| BBB+〜BBB- | 投資適格の最低ライン | 普通 |
| BB+以下 | 投機的(いわゆる「ジャンク債」) | 高い(リスク大) |
格付けが高いほど「信用力が高い=お金を借りるコストが安い」ということになります。逆に格付けが下がると、社債の利回りを高くしないと買い手がつかなくなり、資金調達コストが上昇します。
格付け機関は定期的に企業の状況を見直し、状況が悪化すると「格下げ(ダウングレード)」、良くなると「格上げ(アップグレード)」を行います。
② NTTが格下げされた経緯——2年連続で下がった理由
2025年6月:1回目の格下げ(A → A-)
S&Pグローバル・レーティングは2025年6月、NTTの長期発行体格付けを「シングルA」から「シングルA-」に1段階格下げしました。
理由はNTTデータグループの完全子会社化(TOB)です。NTTはNTTデータグループを完全子会社にするため多額の借金(有利子負債)を増やしました。格付け機関は「負債対EBITDA比率(稼ぎに対する借金の割合)が2.8倍から3.5倍台半ばに悪化する」と判断し、格下げを決定しました。
EBITDAとは「利払い・税金・減価償却前の利益」のことで、企業の実力ベースのキャッシュ創出力を表す指標です。負債/EBITDA比率が高いほど「借金を返すのに時間がかかる」と判断されます。
2026年5月:2回目の格下げ(A- → BBB+)
さらに2026年5月27日、S&Pは再度格下げを実施。「シングルA-」から「トリプルB+」に1段階格下げしました(2年連続の格下げ)。
今回の主な理由は携帯通信事業(NTTドコモ)の利益低迷です。S&Pは「主力の国内移動通信事業の利益低迷を主因に、全社利益は停滞が続く」と説明しています。
ドコモは2025年度に純利益の下方修正(1兆400億円→9,650億円)を実施。料金競争・顧客獲得費用の増大・5G投資の重さが重なり、収益力の改善が見通せない状況が格下げにつながりました。
なお同様の流れはムーディーズでも見られており、NTTの格付けは複数の機関で下方修正が続いています。
③ NTTと大手2社の格付け比較(過去〜現在)
NTTの格付けが「どこから落ちてきたか」を、大手通信3社と比較しながら見てみましょう。
| 時期 | NTT(S&P) | KDDI(S&P) | ソフトバンク(S&P) | 主な出来事 |
|---|---|---|---|---|
| 1990年代 | AA〜AA+ | —(未上場) | — | NTT民営化後、準国家企業として高格付け |
| 2000年代前半 | AA | A〜A- | BB〜BB+ | NTTグループ再編・ドコモ上場 |
| 2010年代 | AA-〜A+ | A- | BB+ | スマートフォン普及・料金競争激化 |
| 2020年11月 | A(2段階格下げ) | A- | BB+ | NTTドコモ完全子会社化(約3.9兆円の買収) |
| 2025年6月 | A-(格下げ) | A- | BB+ | NTTデータグループ完全子会社化 |
| 2026年5月 | BBB+(格下げ) | A- | BB+ | ドコモ利益低迷が深刻化 |
かつてNTTはKDDIより2〜3段階上の格付けを誇っていましたが、2026年現在、KDDIと同じ「投資適格・中上位」の水準にまで低下し、差が縮まっています。
ソフトバンクはもともとBB+(投資適格の一段下)と低めですが、逆に言えば「これ以上下がりにくい水準」でもあります。
※格付けは参考値です。最新情報はS&Pグローバル公式・各社IRページでご確認ください。
④ NTTの過去30年間の業績推移
NTTがどのように成長・変化してきたかを数字で見てみましょう。
| 年度(3月期) | 売上高 | 営業利益 | 当期純利益 | 有利子負債(概算) | 自己資本比率(概算) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1995年 | 約6.9兆円 | 約5,000億円 | 約1,500億円 | 約6兆円 | 約12% |
| 2000年 | 約11.1兆円 | 約1.2兆円 | 約2,000億円 | 約11兆円 | 約13% |
| 2005年 | 約10.9兆円 | 約1.1兆円 | 約4,000億円 | 約8.5兆円 | 約16% |
| 2010年 | 約10.3兆円 | 約0.9兆円 | 約4,800億円 | 約7.5兆円 | 約20% |
| 2015年 | 約11.6兆円 | 約1.4兆円 | 約5,800億円 | 約8兆円 | 約22% |
| 2020年 | 約11.9兆円 | 約1.5兆円 | 約8,500億円 | 約12兆円 | 約24% |
| 2021年 | 約11.9兆円 | 約1.7兆円 | 約7,900億円 | 約20兆円 | 約18% |
| 2022年 | 約12.2兆円 | 約1.8兆円 | 約1.1兆円 | 約19兆円 | 約18% |
| 2023年 | 約13.1兆円 | 約1.9兆円 | 約1.2兆円 | 約19兆円 | 約19% |
| 2024年 | 約13.4兆円 | 約1.8兆円 | 約1.0兆円 | 約20兆円 | 約18% |
| 2025年 | 約13.7兆円 | 約1.85兆円 | 約0.9兆円 | 約23兆円 | 約16% |
| 2026年(予) | 約14.2兆円 | 約1.9兆円 | 約0.85兆円 | 増加傾向 | 低下傾向 |
注目ポイント:売上高は右肩上がりが続いていますが、当期純利益は2023年の1.2兆円をピークに低下傾向。有利子負債は2020〜2021年のドコモ完全子会社化で急増し、現在は約23兆円規模に膨らんでいます。
PER・PBRの状況
| 指標 | 2024年頃 | 2025年頃 | 2026年5月現在 |
|---|---|---|---|
| PER(株価収益率) | 約12倍 | 約13倍 | 約15〜17倍 |
| PBR(株価純資産倍率) | 約1.3倍 | 約1.4倍 | 約1.5〜1.7倍 |
PERが上昇傾向にある一方、利益が伸び悩んでいることから、「株価が割高方向に動いている」との見方もできます。ただし通信セクター全体の相場環境にも依存します。
※業績数値は開示資料・IR情報をもとにした概算です。PER・PBRは株価変動で日々変わります。最新値はYahoo!ファイナンス等でご確認ください。
⑤ NTTグループの今後の営業戦略——「AIOWN」で世界に打って出る
格下げを受けたNTTは、手をこまねいているわけではありません。2026年5月に「New value creation & Sustainability 2030 powered by AIOWN」という新たな中期戦略を公表しています。
IOWN(アイオン)とAIOWNとは?
NTTが最も力を入れている技術が「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」です。光電融合という次世代技術を使い、現在のデータ通信の消費電力を100分の1に、通信速度を125倍にすることを目指しています。
さらにこのIOWNにAI(人工知能)を掛け合わせた「AIOWN」を新戦略の核に据えています。
4つの成長軸
- グローバルデータセンター事業の拡大:NTTグループは世界第3位のデータセンター基盤を保有。AI需要拡大を背景に、海外DC事業を成長エンジンと位置づけています。
- 法人向けDXソリューション:NTTデータグループを完全子会社化し、企業のデジタル化支援を一体で提供。グローバルIT企業として勝負します。
- 国内通信の収益改善:ドコモの収益低迷改善が急務。料金プランの見直し・コスト削減・5Gの付加価値サービス展開で底打ちを目指します。
- 将来技術への投資:光量子コンピュータ・モビリティ(自動運転)・宇宙通信など、2030年以降の成長を見据えた研究開発投資を継続します。
短期的には携帯事業の低迷が足かせですが、中長期では「インフラ×AI×グローバル」という三本柱でV字回復を狙っています。
⑥ 格下げ背景をふまえ、NTTへの投資はどう考えるか
FPとしての見解を正直にお伝えします。
格下げは「売りシグナル」か?
格下げは株価にネガティブな影響を与えることが多いですが、必ずしも「今すぐ売れ」を意味するわけではありません。格付けは主に「社債の信用力」を評価するものであり、株式投資の判断はまた別の視点が必要です。
NTT株の「投資としての魅力と懸念」を整理する
| 投資としての魅力 | 懸念材料 |
|---|---|
| ✅ 安定した配当(連続増配実績あり) | ⚠️ ドコモの利益低迷が長引く可能性 |
| ✅ 日本最大のインフラ企業(景気に左右されにくい) | ⚠️ 有利子負債23兆円の重さ |
| ✅ 世界3位のDCインフラ・グローバル成長余地 | ⚠️ 2年連続の格下げで機関投資家の売りが出やすい |
| ✅ IOWN・AI技術という中長期の成長材料 | ⚠️ 短期的な利益改善は不透明 |
| ✅ 政府(日本政府)が3分の1超を保有する安定株主構造 | ⚠️ 格付けがBBB台に落ちると一部機関投資家が保有制限 |
FPとしての総合判断
NTTは「安定高配当の日本代表銘柄」という位置づけに変わりはありません。ただし、今回の格下げが示す本質的な問題——「多額の借金を抱えながら、稼ぎが伸び悩んでいる」——は、すぐには解決しない課題です。
投資判断の観点から言えば、
- 長期保有・配当目的のインカム投資:依然として有力な選択肢。ただし配当の持続性はドコモの回復次第。
- 短期・成長投資目的:IOWN・グローバルDCが本格的に収益貢献するのは2027〜2030年以降の見込み。急な株価上昇は期待しにくい。
- ポートフォリオの分散先として:景気後退に強いディフェンシブ銘柄として、一定割合の保有は合理的。
「NTTはもう終わり」ではありませんが、「格下げ前と同じ感覚で保有し続ける」のも注意が必要です。配当利回りと今後のドコモ業績の動向を定期的に確認しながら、保有比率の見直しをするのが現実的な対応でしょう。
まとめ
- 📉 格下げとは「信用力のスコアが下がること」=借金コストが上昇するリスク
- 📉 NTTは2025年・2026年と2年連続でS&Pに格下げされた(AA水準→BBB+)
- 📌 主因は①NTTデータ完全子会社化による借金急増、②ドコモの利益低迷
- 📊 売上は伸びているが、純利益は伸び悩み・有利子負債は約23兆円に膨張
- 🚀 中長期戦略「AIOWN」とグローバルデータセンター事業が反転攻勢の鍵
- 💡 投資判断:長期配当目的なら保有継続も合理的だが、ドコモ業績の動向は要チェック
「盤石企業」でも時代と戦略の変化で格付けは変わります。格下げをきっかけに、改めてNTTという会社の今と未来を見直してみてはいかがでしょうか。
